2011年7月9日土曜日

【読書メモ】【経済学】次世代インターネットの経済学



本書はインターネットの普及とともに、急成長してきたグーグル、Amazon、マイクロソフトのような企業が活動するデジタル経済に関する入門書だ.経済学を用いると、このデジタル経済はどのように説明できるのかが明らかにされていて、現実の社会現象に経済学がいかに適用されるのかを知ることができる.

本書の最初に、経済学の枠組みを用いてネット産業の特徴が説明される.規模の経済やネットワーク効果、ロックインなど、経済学を学んだことのある学生なら聞いたことのあるキーワードが並んでいる.

情報通信産業は他の産業と比べて、特に専門用語が多い、というより技術革新が早すぎて次から次へと言葉が生まれて、整理するのが難しい.本書はそういう産業を対象にしているので、アルファベットや横文字がとにかく多い.読むのにとても苦労しました…

本書を読んで驚いたことは(というか情報インフラについてこれまで何も知らなかったので)、実は日本が他の国と比べてすばらしい情報インフラを持っているということだ.

情報通信産業の特徴を説明する経済理論や実証分析を経て、終章では、ブロードバンド立国へ向けての最近の動き(光の道構想など)や筆者の提案が掲載されている.

2011年5月25日水曜日

【読書メモ】【数学】証明の展覧会Ⅰ



本書の序文にあるように、英語のseeは、「見ること」と「理解する」という意味を持つ.図を見て理解する.それが"Proofs without words".言葉は厳密だけれでも、しばしば理解することを困難にする.一方で、図を用いて証明することは、厳密ではないけれども、証明やその意味の理解を容易にする.どちらも必要不可欠だが、理解することや人に伝えることを重視するなら、絵を描いてみることが一番いい.

以下は序文の引用です.

もちろん《言葉を用いない証明》は正確な証明とはいえません.論文”数学における視覚化の不都合について”の著者、テオドール・アイゼンバーグとトミー・ドレイファスは、この論文の中で次のような指摘をしています:視覚に訴える議論は信憑性に欠けると考え、「数学を伝える手段はただ1つしかなく《言葉を用いない証明》は受け入れ難い」とさえいう人もいます.しかし、私たちはこの意見には完全には賛同できません.多くの数学者たちの以下のような見解が私たちの意見の正当性を裏付けてくれるでしょう.
(中略)数学者ソロモン・レフェシェッツに言及して、ポール・ハルモスは「彼を数学の倫理としてではなく、像として捉えていた」と述べています.また数学者となるには、どのような才能が必要かということに触れて、ハルモスは「数学者となるには、視覚的に物を捉える才能を持っていることが必要である」といっています.確かに教師のほとんどは、学生たちからこの才能を引き出すことを心がけています.ジョージ・ポーリアの「図を描いてみよ」という戦略は教育法の古典的な定石であり、またアイゼンスタインやポアンカレの「人は視覚的な直観力をもっと使うべきだ」という主張もよく知られています.

本書は、数学でよく知られた定理の証明をすべて図を使って証明しようという、何とも野心的な内容で、証明を視覚的に捉えようとすることを目的にしています.
ただここまで、本書の序文を引用して、名前の出てきた数学者のほとんどを誰か知らない…汗

経済学との関係で興味を持った箇所は、部分積分、コーシー・シュワルツの不等式、算術平均と幾何平均、無限等比級数の和などなど.
図を使うと、あーそんなことだったのかと単純なものが多いことに気がつく.

中には、大学入試勉強のときの、図形問題で見たことあるような問題も….図形の問題はいろんなところで応用しやすいのでしょうか.

証明者のところでアメリカ大統領の名前が出てきたのには驚きでした.

2011年5月21日土曜日

【コント】【テレビ】サラリーマンNEO

http://www.nhk.or.jp/neo/

ついにseason6.

サラリーマンという身近なものを題材を笑いに変える30分コント番組だ.

サラリーマンではないから、全く実感がなし、サラリーマン生活がどんなものか分からないのだけれども、これだけseasonが続いているということは、それなりにrealityがあって、共感する視聴者が多いのだろう.

前回(5/17)で特に面白かったのは、東進ハイスクールのCMのパロディだ.

「OB・OG訪問が大切だということを何度も言っておきます」

題材は就職活動.

厳しいと言われるこの時期に、「笑える」という精神力は大切.

今まで保守的なイメージのあったNHK.
こんな番組もやるんだっていう衝撃が大きいだけに、毎season楽しみにしてしまう.

2011年5月15日日曜日

【読書メモ】【経済学】市場を創る



「大学院ではミクロ経済学を専攻しよう!」と考えたきっかけとなった本.

ダッチオークションから始まり、著者が関わった電波周波数帯オークションまで市場を真摯に観察し、経済学的に分析、そして設計しようとする姿勢が随所で伝わってくる名著だと思います.
経済の大学院のコアコースでは、数学的な知識を習得するのにかなりの時間を割きますが、本書を読めば、その数学の習得の先におもしろい分析ができるのではないかという期待が高まってきます.つまり、オークションがいかに機能するのかを理解し、新しい取引メカニズムを生み出すのに、経済理論がいかに役立っているのかを知ることができるところが本書の大きな魅力だと思います.

2011年4月17日日曜日

【読書メモ】【ファイナンス】金融工学の悪魔



複雑?な金融工学
ポートフォリオ理論やデリバティブ、ブラックショールズ公式などを始め、金融工学の分野では高等数学を駆使しており、一般の人では理解することが困難である.高等数学やコンピュータを駆使して金融取引の際に計算を複雑にするということを実用面に応用するのは大いに問題だ、とするのが本書の基本的立場なので、本書では一見すると複雑で理解しがたい金融工学の分野を解き明かし、経済的な意味合いを確認していく.

本書でもっとも印象的なパートは、ブラックショールズ公式を用いずオプション価格を導出するところだ.単純な四則演算なので、意味を確認しやすい.さらにオプションを組み合わせた金融商品などもどのような仕組みになっているのかも直感的に理解できる.金融工学を勉強する前に、このような本を読んでいれば、理解しやすい.

著者は、「出社が楽しい経済学」で有名な吉本先生.経済学者ならともかく、一般の人では金融の世界でいったい何が行われているかを正確に把握することはできないだろう.この本を読めば、そんな疑問も解消される.金融工学の複雑な世界のエッセンスのエッセンスを抽出したのが本書である.

本書で金融取引で行われている経済現象を理解して、金融工学の数学的手法や統計的手法をマスターすれば、スムーズに実務面で活用できるのではないだろか.

目次
第一章 リスクのない資産はない

第二章 デリバティブは妖怪じゃない

第三章 個人のためのファイナンス講座

第四章 応用と実践のファイナンス

2011年4月9日土曜日

【小説メモ】ビッチマグネット



 一人称の話口調で物語が進んでいくのは今までの舞城作品と同じだが、今までの作品とは違うのは、フィクション部分がないということ.

 現実から素直に物語を紡いでいくところがこの作品の特徴であると思う.

2011年4月6日水曜日

【読書メモ】【経済学】貿易の知識



 小峰先生の『政権交代の経済学』『人口負荷社会(日経プレミアシリーズ)』を読んで、次に読もうと思ったのが、『貿易の知識』.貿易については学部時代に国際マクロや国際貿易などの授業を通じて、体系的に勉強してきた.こうした授業の副読本として本書を読んでいればもっと理解が深まったのに…と後悔させられる一冊.

概要
 本書は以下の2点に焦点を当てている.
・貿易を通して日本経済が国際的に直面している課題を考える.
【例】輸出頼みの景気回復からいかに抜け出すか、デフレは安価な輸入品の流入によるものか、FTAに関する議論など.
・貿易に関する最新の動向を取り入れる.
【例】貿易摩擦や直接投資の増大など

 経済学者の書いた本なので、もちろん自由貿易を推進し、貿易による「国際分業」を通じて自給自足経済よりも高い経済活動水準を達成できると主張している.
→現代の主要国はGDPに占める輸出入のウエイトが高まっている.
→日本の貿易が世界にどのような影響を与えるかという「大国の発想」が必要.
→長期的な経済成長に貿易は重要な意味を持っている.

FTA
 過去数年前に出版されたものであるが、改訂の際に最新のトピックを盛り込んでいる.その代表例がFTAである.私が興味を持ったところなので、少しまとめておこうと思う.

 FTAは、参加国間の関税などの輸入障壁を撤廃して、「自由貿易地域」を作ろうとするもの.
 WTOなどの多国間交渉よりも、比較的少ない地域で交渉を進めるFTAは交渉スピードが早いこと、アメリカなどの主要国が熱心であること、またFTAに乗り遅れると不利益を被ることがFTAを世界的に拡大させている.

 筆者は、FTAが国内の構造改革を推進するのではないかと期待している.例えば、国内の農業分野を競争によって効率化し、少子高齢化の中で、医療・介護の分野で人材を確保する.こうしたことは日本にとって避けられない問題である.

 このように本書ではFTAが支持されているが、注意しなければならないこともある.世界的にFTAが広がる一方で、FTA加盟国が非加盟国に与える影響を考えなければならない.つまり、加盟国が非加盟国の輸入品に障壁を設けることや、加盟国が貿易の相手を非加盟国から別の加盟国に切り替えることで、非加盟国にマイナスの影響を与える可能性がある.第二次世界大戦期のブロック経済の教訓を忘れてはならない.自由貿易経済圏を広めることは経済厚生を高めるので重要であるが、最終的にはWTOのように多国間交渉を進め、世界規模で貿易自由化を推進する必要があるだろう.

 今回の日経経済新聞『やさしい経済学』は貿易政策の実証分析.理論的に説明されている自由貿易による貿易の拡大や経済厚生の向上などが最新のデータを用いても証明できることを示した研究を紹介している.本ブログを書くときにもたいへん参考になりました.

疑問点
 42ページで疑問点がある.この章では国際貿易の理論的説明を試みている.そこに

貿易は次のような点で経済の供給力を強め、経済成長を高めるものと考えられています.第一は、貿易によって生産フロンティアが広がることです.

との記述がある.貿易によって生産フロンティアが広がることはあるだろうか.リカードモデルやHOモデルでも貿易によって生産フロンティアが広がることはなかった.生産フロンティアが広がるのは、技術革新などの要因によってではなかっただろうか.

まとめ
 他にも、戦後からの日本の貿易の歴史やIMF・WTOなどの世界規模の自由貿易の波及など様々なトピックが本書で紹介されている.これだけトピックがつまって日経文庫から830円+消費税で購入できるのでお得感満載.

2011年4月4日月曜日

【小説メモ】煙か土か食い物



 他の舞城作品にも言えることだけど、とにかくテンポがよくて意表をつかれる.一文が長い文章が多いことも特徴だと思う.それに語り口調.バイオレンス.まさに「圧倒」されるのだ.

2011年4月1日金曜日

【読書メモ】【経済学】ゲーム理論の思考法



 政治家のかけひきや会社での人間関係など、社会の中で解決したい身近な問題はたくさんある.本書は、そうした問題を「ゲーム」としてとらえ、その問題の構造を俯瞰的に見ることで、より質の高い思考をし問題の解決を目指すことを目的としている.

 本書では以下のようなゲームが紹介される.
囚人のジレンマ/コーディネーション・ゲーム/チキンゲーム/マッチング・ペニーズ/ホテリング・ゲーム/ダイナミック・ゲームである.また本書の最後で、行動経済学的な観点をプラスしたゲーム理論が簡単に紹介される.

 こうしたゲームの構造を理解することで、
⑴問題の全体像を把握し、⑵将来にどのようなことが起るかを予想し、⑶ゲームのどの部分が改善されれば問題を解決できるかを
知ることができると筆者は主張している.

 ビデオ戦争やキューバ危機、ラーメン店が駅前に集中する理由、バブルなど豊富な具体的な例を挙げながら、ゲーム理論がこうしたことにどのように答えるのかが丁寧に説明されている.実社会で経済理論がどのように活用されるのかを示す良書である.

 明日から本書の思考法を真似したくなること間違いなし.

2011年3月31日木曜日

【小説メモ】獣の樹



the舞城という感じの作品.今回のテーマは、自分が何者かを見つける、というところだと思う.現実と虚構、優しさと暴力が混ざり合って、物語は進む.テンポが良くてどんどん読み進める文章力は健在.

2011年3月29日火曜日

【読書メモ】国際協力ってなんだろう

おススメ度★★★★★


 ソ連崩壊以後、自由主義的な経済開放の広がり、インターネットや携帯電話の普及、そして国際開発のための多大な努力により、多くの発展途上国はほとんど例外なくダイナミックに変化している.日本の戦後約65年間で、韓国など繁栄を謳歌している国がある一方、未だに貧困状態からなかなか抜け出せずにいる国がある.

 本書はこうしたダイナミックに変化している途上国で行われている―例えば、感染症対策・教育・汚職対策・マイクファイナンス・貿易などー国際開発の様々な取り組みを紹介している.また本書では単にそうした国際開発の取り組みを紹介するだけではない.経済学的な視点から国際開発の取り組みを分かりやすく説明しているので、開発経済学を学び始めるときに活用できそうだ.

 今、『市場を創る』を私は読んでいるのだけれども、『国際協力ってなんだろう』と同時に読んでいると発展途上国で健全な市場が構築されることがその後の繁栄にいかに影響を与えるかを確認できる.また、例えば新薬の開発に関して先進国の特許システムが、感染症が発生し蔓延しやすい途上国においてどれほど厄介なものであるかを理解することができる.途上国で国際開発を取り組むのなら、トップダウン式にどのような市場を設計するのかが重要になってくるのではないだろうか.

 たくさんの筆者がそれぞれの章を担当しているので、章ごとのつながりはほとんどないが、それでも様々な立場から国際開発に取り組んでいる人たちの視点を通して現場を知ることができる一冊である.

2011年3月28日月曜日

【小説メモ】好き好き大好き超愛してる。

おススメ度★★★★★


 ありえない現象を描いているのに文章に込められた恋人への思いはリアルに感じる.リアルに感じるのは、死んでいく恋人への気持ちに生々しさがあるからだと思う.恋愛小説と言えば、恋人を死なせることによってその愛情の深さを再確認するっていうパターンが多いような気がするけど、この作品はそうではない.死んでいく恋人に対して、自分の欲望をぶつけてしまいそうになり葛藤する.現実ならこういう風になってしまうだろう.

 舞城の他の作品に比べて疾走感はないけれど、ゆっくり味わえる一冊だと思います.

2011年3月26日土曜日

【小説メモ】阿修羅ガール

おススメ度★★★★☆


 友達に教えてもらって初めて読んだ舞城の作品が「阿修羅ガール」.女子高生の語り口調で物語が進行していくことや、現実と非現実がごっちゃになっていることに違和感を感じずにはいられない.

 文学が挑戦であるというのなら、この作品は見事にそれを体現している.

2011年3月25日金曜日

【読書メモ】【経済学】政権交代の経済学

おススメ度★★★★☆


 政治家の発言やその発言に対する国民の反応を見ると日本は他国に比べて経済学を重要視していないように感じられる.そうした状況の中、本書の目的は経済学の概念を用いて現実の経済政策を理解し、また民主党政権の提案する政策を吟味し望ましい経済政策のあり方を議論するものである.

 本書で最も評価される点は、経済学というツールを用いると、どのように経済政策を考えることができるのかを、経済学を知らない人にも分かりやすく説明しているということである.こうした類似の本は多く出版されているが、本書はそうした本の中でも分かりやすく書かれているものの一つである.
 本書では、学者・研究者・ジャーナリスト・エコノミストが各章を担当し執筆している.このことは経済現象や経済政策の分析を独りよがりにせずに多角的なものとしているが、一方で各章ごとのつながりを希薄化させ、また各章のクオリティーにばらつきを生じさせてしまっている.

 以上のような欠点があるのにも関わらず、本書は様々な経済現象や経済政策を考えるきっかけとなりえる.政治家や評論家が必ずしも経済学を修得し、使える人たちであることはほとんどない.こうした人たちが本書を読めば、少なくとも国会で有意義な政策議論ができるのではないだろうか.

 執筆者の代表である小峰先生の主張は『人口負荷社会(日経プレミアシリーズ)』にも詳しい.『政権交代の経済学』とともにおすすめの一冊である.

2011年3月23日水曜日

【読書メモ】【統計】その数学が戦略を決める

おススメ度★★★★☆



ワインの品質をどう予測するか
 ワインは収穫から競売にかけられるまで相当な時間がかかることから、収穫時にワインの価格を予測することが重要になってくる.今まで、ワインの品質を予想する際に、ワインの専門家たちは経験と直感に基づき判断していた.しかし、その精度に疑問を呈したものがいた.絶対計算者だ.彼らは大量のデータの解析に基づき回帰分析を行った.絶対計算者の品質予測の方がその精度は高く、これまでにも優秀な結果をおさめている.
 本書ではこの絶対計算者にスポットを当て、彼らの活躍の場やその方法について紹介する.

絶対計算の例
 ワイン業界だけではなく、絶対計算者は様々な分野で活躍している.例えば、Amazonの「この本を買った人は…」紹介、出会い系サイトで相性の良い人を見つける方法、ローン会社の新規融資募集方法の検討、政府による政策決定、医師のための有効な治療方法の検索、売れる映画脚本の作成などである.その方法は回帰分析、アルゴリズム、データマイニングなどである.

専門家と絶対計算者
 例えば、アメリカにおける根拠に基づいて医療(EBM)でもその対立は顕著である.患者に対して医師=専門家はその知識の限界のために、また人間によくある先入観のために、必ずしも正しい診断を下せるとは限らない.そこで、データ分析による極めて単純な手続きが、こうした医療現場でよくある事象を改善しうる.
 診断支援ソフト「イザベル」は広範な医療論文を網羅しており、医師の盲点となるような病気の可能性をあげてくれる画期的なソフトである.しかし、そうした画期的なソフトの開発により、医師=専門家の地位は低下してしまう.このように絶対計算者の台頭は専門家にとってその職を脅かすものとなり、絶対計算者は反発をくらうである.

絶対計算をうまく活用するには
どれだけ専門家が反発しようと絶対計算の流れを止めることはできない.本書で主張することは、単に絶対計算に従え、ということではなく、専門家的な直感や自分の経験と絶対計算者による統計分析を相互に参照せよ、ということである.そのために、一般人でも統計や数学の知識が必要となる.

おわりに
 補章では、絶対計算の無料ツールが紹介されている.本ブログのタイトルも多くの人に見てもらうために、最適なタイトルを絶対計算によって検討してみるのも面白いかもしれない.

2011年3月22日火曜日

【読書メモ】【経済学】人口負荷社会②

人口負荷社会②では、私が勝手に興味を持った第9章についてまとめてみたい.



第9章 人口オーナス下の産業・企業
本書第9章では、人口現象が国内の市場規模を縮小させるのかを検証している.筆者の答えは、規模は縮小しないということである.そうするとよくテレビや新聞などの報道でよく目にする、「国内市場の拡大が見込めず、海外に進出」という文句は全くの間違いだということなのだろうか.この点について本書の要点を整理したい.

1.輸出と国内需要
筆者は、報道でよく目にする「人口減少で国内市場規模が縮小するので輸出頼みになる」という議論は論理的に間違いだと指摘する.これは仮に人口減少下だとしても輸出が増えると、一人あたりの所得が高まり、その所得を国内の財・サービスに使えば国内需要が拡大するからである.したがって輸出頼みになったとしても、輸出で設けたお金を使えば、国内の市場が収縮する可能性は低い.

2.名目GDP成長率
また、数値的にも人口減少で国内市場は縮小しないと主張している.名目GDPの変化率=人口変化率+一人あたり名目GDPの変化率を用いてデータを検証すると、一人あたり名目GDPの増加率は2006年〜2030年の間の人口減少率を上回る可能性が高い.そしてデフレーターがプラスになれば、名目GDP成長率はさらに高まる.

3.人口減少=国内市場規模縮小論
それでは、なぜ「人口減少=国内市場規模縮小論」が支配的であるのか.筆者は次の2つの要因を挙げて説明している.
①現に市場が縮小しそうな産業・企業のミクロレベルの議論をマクロレベルに延長してしまっている.(国内向けしか作っていなかった企業が生き残りのために海外へ進出し、稼いだお金が国内で使われると、シルバーマーケットのような市場が生み出されるはず)
②量と質について錯覚を起こしている.食品・教育業界は、人口や学生が減るとマーケットが縮小するように思われるが、質(付加価値)が低くなるとは限らない.むしろ付加価値を高め、消費額を増やすことに成功すれば、マーケットの規模(消費量×消費額)は縮小しない.

2011年3月19日土曜日

【読書メモ】【経済学】人口負荷社会①

おススメ度★★★★★ 

「長期的な日本経済・社会を考えるとき、もっとも重要なのが人口問題」
である.本書はこの点に注目している.具体的には、本書では日本における人口構造の現状を示し、それが日本経済に与える影響の分析を行う.そしてその対応策を経済学的観点から紹介している.

「人口オーナス」とは
日本は今、「人口オーナス」の状態にあるという.「人口オーナス」とは、人口の中で働く人の割合が低下することが経済にマイナスに作用することである.人口統計を見れば、日本は他国に比べて急テンポで高齢層の割合が勤労層に対して相対的に増えていることがわかり、筆者はこうした人口構造の変化が問題であると主張している.

人口オーナスの与える長期的な影響
そしてこの人口オーナスは経済成長に大きな影響を与える.本書では長期的な視点に立って、人口の経済の影響を考察している.成長力が労働力・資本・全要素生産性によって決まるとすると、人口オーナスはこれら全てにマイナスの影響を与える.
まず、仮に労働市場への参入が現状程度で推移すると考えると労働人口は2030年には5597万人となり、2004年の6642万人から約1000万人減少する.
次に人々がライフサイクル仮説に従うと貯めたお金を使う仕事をリタイアした高齢者がお金を貯める就業者よりも相対的に増えるので国全体の貯蓄が減少し資本不足となる.
最後に全要素生産性については、特に人口との関係で社会保障のパフォーマンスが大きな問題が生じるので、これも同様に低下してしまう.これは、現在の社会保障制度が人口増加時代に設計されたもの、人口オーナス下では対応できないからだ.
以上を整理すると人口オーナス下では、成長力の源泉である労働力・資本・全要素生産性がすべて低下してしまう.

おわりに
本書では他に人口オーナスの要因や影響、対応策が記述されている.そして筆者はそこで望ましい経済のあり方を紹介している.このように望ましい姿を理解し、議論することは重要である.しかしそれだけでなく、我々は望ましい姿をどのように達成するかを考えなければならない.これは非常に難しい問題である.その一つの原因として、一つの制度は無数の法律が付随し成り立っていることが挙げられる.一つの制度あるいは慣習を変えることは、今までもそうであったように、容易ではない.望ましいあり方だけでなくその望ましい姿までのプロセスを提示するのも、経済学の重要な使命ではないか.

2011年3月18日金曜日

【映画メモ】【雑記】ソーシャルネットワーク

映画おススメ度★★★★★
DVD


先日、話題の映画Facebookを観にミント神戸まで出掛けた.
この映画はFacebook創業者マーク・ザッカーバーグを中心にFacebookが立ち上がるまでを描いたものだが、最も印象的なシーンは、ハーバード大学長ラリーサマーズが、マーク・ザッカーバーグのアイディア盗用を主張する2人のハーバードの学生へかけた言葉だ.

「他人に雇ってもらうよりも仕事は創れ」

あまり日本ではこのような台詞は聞かないような気がする.アメリカと日本の文化の違いだろうか.

江戸時代の堂島米市場からeBayまで、もちろん電波周波数帯オークションのように政府(経済学者)が市場を設計する場合もあるが、新しい市場を生み出してきたのは、商人や起業家たちの努力の結果だ.そうして、私たちの生活は豊かになってきたのだ.新たに創られた仕事は、全く価値の異なるものを吸収し再編制しながら、大きくなっていく.

起業家たちが市場を創り続けるのは、そこで資本を媒介させることで利潤を獲得できるからである.そして、まさにこれが資本主義だ.

したがって、資本主義の時代を生きるものにとって「仕事は創れ」という言葉は、当然のこととして受け止めなければいけないだろう.


2011年3月17日木曜日

【読書メモ】【ネットワーク】急に売れ始めるにはワケがある

おススメ度★★★★☆



本書の目的はアイディアや流行・社会的行動などが短期間で劇的に広がる(これをtipping pointと本書では呼んでいる)理由やそのメカニズムを解明することであり、筆者は様々な事例を分析し、それらの事例の共通するものを抽出することに成功している.その共通項とは①少数者の原則②粘りの要素③背景の力である.

①少数者の原則
少数者の原則の「少数者」とはアイディアや流行、伝染病などが広まる初期の段階で重要な役割を果たす人々のことである.具体的には、(本書の後半でより詳細な登場人物が紹介されるが)コネクター、メイヴン、セールスマンのことを指す.

コネクター
他の人々と比べて様々な人々とつながり(強いつながりから弱いつながりまで)を持つ人々.このネットワークを通じて多くの人に伝達される.

メイヴン
ある事情に詳しい人々.誰かにその情報を伝えたがっていることが多い.ある事情に詳しい分、聞き手は信用しやすい.

セールスマン
説得のプロ.納得していない相手に説得してすすめる.特徴的な点は、コネクターやメイヴンとは異なり相手を説得するということである.


②粘りの要素

粘りの要素の「粘り」とは、人々の記憶にアイディアやメッセージがどの程度残りやすさを示す言葉である.つまり粘りが強ければ強いほどそれは人々の記憶に残りやすくなる.本書ではセサミストリートや広告などを例にあるメッセージを人々により残りやすくする方法を紹介している.そして、その粘りを持たせる最も良い方法は、そのメッセージの内容そのものではなく、その提示方法に工夫を加えることである.

③背景の力

人々の行動や伝染病は思っている以上に環境に影響を受けているという.このように私たちをとりまく環境や状況から受ける影響を背景の力と本書では呼んでいる.本書では地下鉄の落書きを例に挙げて代わりの環境がどのくらい人々に作用しているのかを明らかにしている.(地下鉄では犯罪が多かったが、その犯罪撲滅のために取り組んだ方法は、地下鉄の落書きを消す方法であった)

おわりに
本書の前半ではこれら3つの原則を様々な事例に即して説明しており、その議論は特に心理学の視点に立脚している.そして本書の後半では3つの原則が複雑に作用し合った事例を紹介している.本書が教えてくれる重要なことは、爆発的拡大を生む3つの原則だけではない.それはそうした拡大が実は、ちょっとしたことから発生しているということだ.
私たちは何かを始めたり動かしたりするときに、それらを加速させ流行を生むきっかけを案外見逃しているのかもしれないということを常に心に留めておかなければならない.

2011年3月16日水曜日

【読書メモ】【経済学】ヴェニスの商人の資本論

ずっと読んでみたいと思っていた本の一つ.難しいと覚悟で読んでみるとなかなか面白い.

おススメ度★★★★☆



本エッセイはシェイクスピアの喜劇『ヴェニスの商人』を舞台に、登場人物を読み解きながら「資本主義」と「貨幣」について考察するものである.著者の考える「資本主義」と「貨幣」を主にP67〜69を引用しながらまとめると次のようになる.

貨幣
流通し始めた貨幣は、利潤を生み出しながら無限に自己増殖しようとする.

そしてこれは本エッセイにおける「資本主義」の定義に他ならない.

資本主義
資本主義-それは、資本の無限の増殖をその目的とし、利潤のたえざる獲得を追求していく経済機構の別名である.利潤は差異から生まれる.利潤とは、ふたつの価値体系のあいだにある差異を資本が媒介することによって生み出されるものである.資本主義はそれゆえ新たな差異を探し求めていかなければならない.資本主義とは、かつてはそれぞれ孤立し、閉鎖されていた価値体系と価値体系とを相互に対立させ、相互に連関させ、それらを新たな価値体系の中へと再編制してしまう力に他ならない.

本エッセイのように『ヴェニスの商人』に対応させると、ふたつの価値体系とはキリスト教社会とユダヤ教社会にあたる.そのあいだの差異を媒介する貨幣とはポーシャのことであり、彼女が生み出す利潤とは子である.彼女を媒介としてキリスト教社会とユダヤ教社会が再編制させてしまう力が資本主義なのである.

「資本主義」「貨幣」について理解を深められる一冊であると思います.

はじめに

こんにちは!BOOK JOURNALへようこそ.

本ブログでは読んだ本の書評や感想を書いていくつもりです.