小峰先生の『政権交代の経済学』『人口負荷社会(日経プレミアシリーズ)』を読んで、次に読もうと思ったのが、『貿易の知識』.貿易については学部時代に国際マクロや国際貿易などの授業を通じて、体系的に勉強してきた.こうした授業の副読本として本書を読んでいればもっと理解が深まったのに…と後悔させられる一冊.
概要
本書は以下の2点に焦点を当てている.
・貿易を通して日本経済が国際的に直面している課題を考える.
【例】輸出頼みの景気回復からいかに抜け出すか、デフレは安価な輸入品の流入によるものか、FTAに関する議論など.
・貿易に関する最新の動向を取り入れる.
【例】貿易摩擦や直接投資の増大など
経済学者の書いた本なので、もちろん自由貿易を推進し、貿易による「国際分業」を通じて自給自足経済よりも高い経済活動水準を達成できると主張している.
→現代の主要国はGDPに占める輸出入のウエイトが高まっている.
→日本の貿易が世界にどのような影響を与えるかという「大国の発想」が必要.
→長期的な経済成長に貿易は重要な意味を持っている.
FTA
過去数年前に出版されたものであるが、改訂の際に最新のトピックを盛り込んでいる.その代表例がFTAである.私が興味を持ったところなので、少しまとめておこうと思う.
FTAは、参加国間の関税などの輸入障壁を撤廃して、「自由貿易地域」を作ろうとするもの.
WTOなどの多国間交渉よりも、比較的少ない地域で交渉を進めるFTAは交渉スピードが早いこと、アメリカなどの主要国が熱心であること、またFTAに乗り遅れると不利益を被ることがFTAを世界的に拡大させている.
筆者は、FTAが国内の構造改革を推進するのではないかと期待している.例えば、国内の農業分野を競争によって効率化し、少子高齢化の中で、医療・介護の分野で人材を確保する.こうしたことは日本にとって避けられない問題である.
このように本書ではFTAが支持されているが、注意しなければならないこともある.世界的にFTAが広がる一方で、FTA加盟国が非加盟国に与える影響を考えなければならない.つまり、加盟国が非加盟国の輸入品に障壁を設けることや、加盟国が貿易の相手を非加盟国から別の加盟国に切り替えることで、非加盟国にマイナスの影響を与える可能性がある.第二次世界大戦期のブロック経済の教訓を忘れてはならない.自由貿易経済圏を広めることは経済厚生を高めるので重要であるが、最終的にはWTOのように多国間交渉を進め、世界規模で貿易自由化を推進する必要があるだろう.
今回の日経経済新聞『やさしい経済学』は貿易政策の実証分析.理論的に説明されている自由貿易による貿易の拡大や経済厚生の向上などが最新のデータを用いても証明できることを示した研究を紹介している.本ブログを書くときにもたいへん参考になりました.
疑問点
42ページで疑問点がある.この章では国際貿易の理論的説明を試みている.そこに
貿易は次のような点で経済の供給力を強め、経済成長を高めるものと考えられています.第一は、貿易によって生産フロンティアが広がることです.
との記述がある.貿易によって生産フロンティアが広がることはあるだろうか.リカードモデルやHOモデルでも貿易によって生産フロンティアが広がることはなかった.生産フロンティアが広がるのは、技術革新などの要因によってではなかっただろうか.
まとめ
他にも、戦後からの日本の貿易の歴史やIMF・WTOなどの世界規模の自由貿易の波及など様々なトピックが本書で紹介されている.これだけトピックがつまって日経文庫から830円+消費税で購入できるのでお得感満載.
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